
『楽しいでつながる世界をつくる』を企業ミッションとして掲げているファイブグループ。このミッションを達成するために、ファイブグループという枠を飛び越えて色んな「楽しい」を学ぼう!ということで、【楽しいのレシピ】では、さまざまな業界・業種で仕事を楽しんでいる人にインタビューを実施!「仕事で楽しさを感じる瞬間は?」「仕事を楽しむために心掛けていることは?」など、対談を通じて、いろいろな“楽しい”のつくりかたや、そのエッセンスに迫ります。
今回インタビューさせていただいたのは、スピーチのスペシャリストであるスピーチライターとして多方面で活躍されている千葉佳織さん。ちなみに千葉さんは、2020年度のファイブグループ社員総会において、登壇者のスピーチライティングおよびスピーチトレーニングをご担当いただいた方でもあります!
【プロフィール】
千葉 佳織(株式会社カエカ代表取締役社長 兼 スピーチライター)
15歳から日本語のスピーチ競技、弁論をはじめる。2011年安達峰一郎世界平和弁論大会にて優勝、2012年内閣総理大臣賞椎尾弁匡記念杯全国高等学校弁論大会にて優勝、2014年文部科学大臣杯全国青年弁論大会一般の部にて優勝をする。
慶應義塾大学卒業後、株式会社ディー・エヌ・エー入社。小説投稿サイトの企画職を経て、人事部へ。同社初となるスピーチライターの業務を立ち上げ、新卒採用を行いながら、イベント登壇社員の育成や、代表取締役社長のスピーチ執筆などに取り組む。2019年、株式会社カエカを設立し、スピーチのスペシャリストとして独立。同社では、「すべての人が話し手となりチャンスを掴む社会へ」というビジョンのもと、スピーチライティング事業・スピーチトレーニング事業・スピーチスクール事業・スピーチライブ事業などを展開している。
※本インタビュー記事の取材は、2020年5月、ZOOMでのオンライン通話にて行われました。
大きな挫折と、人生を白紙に戻す決断
編集部
千葉
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。
編集部
まず千葉さんの会社について教えてください。
千葉
はい。私が代表を務める株式会社カエカは、「すべての人が話し手となりチャンスを掴む社会へ」を掲げ、登壇者の方の原稿執筆から、話し方トレーニングを行う、法人向けスピーチライティング・トレーニング事業、話す力を本気で身につけるための個人向けスクール事業「goodspeak」などを運営しています。弊社のメンバーはもちろん、私自身もスピーチライターとして、原稿を執筆させてもらったり、話し方を指導させてもらったりしています。
編集部
現在、スピーチライターとして多方面で活躍されている千葉さんですが、まずはこれまでのご経歴について、学生時代のお話も踏まえつつ伺ってよろしいですか?
千葉
はい。現在の仕事に繋がる部分からお話しすると、高校から「弁論」に没頭しています。弁論とは、日本語でのスピーチ力を競う個人競技のこと。7分間(1600字程度)の原稿を自ら書き、それを暗記してスピーチし、審査員がつける論旨の点数や表現の点数によって順位が決まるものになります。
編集部
なるほど!ちなみに、弁論のどういった部分に魅力を感じていらしたんですか?
千葉
言葉と話し方というシンプルな要素で、感情を動かすことができる。自分の意見を伝えることで聞き手が感動してくれる体験そのものが強烈でした。弁論に出会うまでは「楽しい」「得意」と思えるものがなかったので、競技を通して「自分は自分らしくいていいんだ」と自信にも繋がりました。そういう意味では、弁論という競技は、私の人生を救ってくれたひとつの大切な存在ですね。
編集部
とてもステキです!そんな弁論での経験や学びを通じて、現在のお仕事であるスピーチライターを目指されるようになったんでしょうか。
千葉
いえ。話すプロへの憧れを強く持った結果、最初に目指していたのはアナウンサーでした。なので、大学時代には、アナウンサーになるためにどうすればいいかのマイルストーンを自分の中で設定して、ミスコンで優勝しようとか、次はこの番組のオーディションに合格しようとか、計画的に動いていたんです。今考えると、ちょっと怖いなって感じもするんですけど(笑)
編集部
いやいや、そんなことないです!実際にミスコンに出場されたりもしたんですか?
千葉
はい。多くの方の支えと運に恵まれて、ありがたいことにミスコンの優勝と、BSの番組キャスターのレギュラーをもらうことができました。ただ、一番の目標である「アナウンサーになる」という夢は、結局達成できなかったんです。就職活動では全国各地のテレビ局を受験したものの、ひとつも内定をいただけなくて。“話す”ことに救われてきて、自分もそれを極めたい、それによって人を助けたいと思ったけれど、仕事として叶えることが許されず、大きな挫折を味わいました。
編集部
なんと……。その後、就職活動はどのように進めていかれたんでしょう。
千葉
いくつかの事業会社の採用試験は受けていて、その中で内定をいただいていた会社のひとつがディー・エヌ・エーでした。アナウンサーを目指していたとはいえ、この時の「なりたかった像」は20数年間での意思決定ですから、またイチからやりたいことを考え直す時間をとろうと。自らの人生を一度白紙に戻そうという決意から、新しいことに挑戦しているディー・エヌ・エーに入社しようと決めました。
編集部
なるほど。大きな決断がそこにはあったんですね。しかし、千葉さんにそんな挫折の過去があったとは……。正直驚きました。
社内初となるスピーチライター業務の立ち上げ。そして独立へ
編集部
社会人になってからのお話も伺えればと思います。ディー・エヌ・エーさんに入社されてからは、どんなお仕事をされていたんでしょうか。
千葉
最初は、小説投稿サイトの企画の仕事をしていました。インターネットで小説を書いている方々に楽しんでいただけるよう、コミュニティづくりを進めたり、コンテストの企画・運営をしたりを、さまざまな会社さんとアライアンスを組んで進めていく仕事です。
編集部
率直に、これまで目指していた仕事とはまったく異なる領域だと思います。仕事に対して戸惑いなどはありませんでしたか?
千葉
当時まではほとんど小説に触れたこともなかったので、正直、最初はものすごく苦労しました(笑)。ただ、この時の経験がとても良かったと今では思っています。
編集部
と言いますと?
千葉
ジャンル問わずさまざまな小説に触れることで、小説の表現形態や、美しい言葉の使い方を知り、表現の奥深さと可能性に気付かされました。また、自分でも3万字の小説を書いてみて、プロの作家さんから小説の講評をいただく機会もありました。この時に触れた、作家さんの熱意と言葉の可能性が、私自身が何を大切にしているのか気づかせてくれたと思います。
編集部
なるほど!
千葉
仕事を通じて小説と向き合い、自分の中で大切なものを再確認した結果、改めて自分自身が本当にやりたいことは何なのかを冷静に見つめ直すこともできたんです。その結果、素直な気持ちで、最初に思い浮かんだのが「スピーチ」でした。かつての弁論への恩、学生時代に向き合ってきた話すこと、この素晴らしさに関わるアクションをもう一度起こしたいと考え始めました。
編集部
このタイミングで、「スピーチライター」という新たな道を歩み始めるんですね!
千葉
会社で本業をしながら、当時はまず副業として、少しずつスピーチライターの仕事をはじめていきました。そのまま副業で続けていくという選択肢もあったんですが、ふと、そもそも所属しているディー・エヌ・エー自体が、もっと社内外へのメッセージングを強化すると面白いのではないかと気づいたんです。そこで、会社に対して、「会社のスピーチ登壇者育成やメッセージングに関わるプロジェクトを立ち上げさせてください」と提案しに行きました。結果、ありがたいことに「いいよ」と言っていただき、ディー・エヌ・エー社ではじめてスピーチライター業務を立ち上げ、同時に人事へ異動させていただく運びとなりました。
編集部
異動後は、人事に所属しながら、スピーチライター業務を専業でやられていたんですか?
千葉
半分は新卒採用領域の業務で、もう半分がスピーチやメッセージングに関わる業務でした。毎週、人事内で話すスキルを上達するための講座をやらせていただいたり、代表取締役社長のスピーチ原稿を書かせていただいたり、コピーライティングに関わる業務にも携わったり。営業担当・カンファレンス登壇社員へのスピーチセミナー、代表取締役会長と新卒社員の対談コンテンツの立ち上げなど、「話す」や「伝える」という文脈のものに関しては、部署横断的にお仕事をさせてもらいました。
編集部
そしてさまざまな実績を残されて、2019年には独立をされると。
千葉
副業ではじめたことを、本業の会社にも後押ししていただいたというのは、とても特殊かつ幸運なことだと思っています。ディー・エヌ・エーは年次に関係なく挑戦を快く後押ししてくれる素晴らしい組織でした。本当に感謝しています。実際にさまざまなスピーチ関連の業務をやらせていただく中で、真正面からビジョンの実現に向けて取り組みたい気持ちがプラスに働いてきて、2019年に株式会社カエカを設立しました。
編集部
独立後は、どのような会社さんとご一緒されることが多いんでしょうか。
千葉
「話す」「伝える」という軸のもと、事業会社さんから自治体さん、政治家さんまで、本当に幅広い業種・職種の方々とお仕事をしております。また、法人向けのスピーチライティングやスピーチトレーニングの他に、個人のお客さま向けのスピーチスクール「goodspeak」を運営しています。また5月末には、はなしことばを学ぶオンラインコミュニティ「goodspeak zero」をリリースしました。話す力を身につけたい多くの方と一緒にお取り組みができるようになり、会社という形態を取ってチームメンバーとともにお仕事に取り組める楽しさを日々感じています。
人が変わる瞬間に立ち会える喜び、楽しさ
編集部
よろしければ、ファイブグループの社員総会に際して、登壇者のスピーチライティングやスピーチトレーニングをご担当いただいた時のお話もぜひ伺ってみたいです。率直に、ファイブグループの業態責任者たちと関わってみて、どのような印象を持たれましたか?
千葉
ファイブグループの方々は、皆さん熱い想いを持って仕事に向き合っていらっしゃいました。一人ひとりが、ご自身の中に格言のようなものをお持ちなので、とてもかっこいいなと思いましたね。
編集部
ありがとうございます!実際にご指導いただいた中で、他の会社さんでお仕事をされる時と何か違う部分などはありましたか?
千葉
はい、私も大きな気づきがありました。ファイブグループさんには、もともとお客さまやスタッフさんとのコミュニケーションに慣れていらっしゃる方が多いと思うんですが、そういった皆さんでも、スピーチを学ばれて、「とても良かったです」とおっしゃってくださって。コミュニケーションのカタチの幅広さと可能性に、こちらも改めて気づくことができました。
編集部
なるほど!一対一のコミュニケーションと、対複数のコミュニケーションの違いですね。
千葉
はい。日頃から一対一のコミュニケーションに慣れ親しんでいる方々でも、対複数のコミュニケーションに新たな学びや価値を感じてくださるんだなと。とても嬉しかったですね。
編集部
ありがとうございます!そうおっしゃっていただけると私たちも嬉しいです!
編集部
ちなみに、千葉さんが日々のお仕事の中で楽しさを感じる瞬間というのはどういった時になりますか?
千葉
やはり一番は、人が変わる瞬間に立ち会えた時ですね。もともとお話をするのが苦手だった方などが、大勢の前に立って堂々とスピーチされているのを観た時や、スピーチ後に今までに経験したことのないような拍手を受けていらっしゃる時、その方の人生の変化を感じられることが、とても楽しいです。
編集部
なるほど!たしかに、そもそも生まれつき話が得意だという方のほうが少ないですもんね。
千葉
そうですよね。伝え方を学ぶことで別人のようになることはとても多いんです。ちなみに、いいスピーチの時ほど、“集中力の音”が聴こえると私は思っています。
編集部
集中力の音、ですか?
千葉
はい。細かい例で言うと、人がたくさんいる大ホールでの講演中に、普通は空調の音などが聴こえないですよね。それが、あるスピーチの際中には聴こえてくることがあるんです。そういった音を、私は“集中力”の音と呼んでいて。
編集部
ああ!なんとなくわかります!
千葉
会場で登壇者の方の話を聴きながら、集中力の音が流れた時、私は、「いまスピーチしている方は、これまで見たことの無い新しい景色を見ていらっしゃるはず」と思います。
編集部
なるほど。千葉さんご自身がスピーチをされる場合には、どういった時に楽しさや嬉しさを感じられますか?
千葉
やはり、スピーチを聞いてくださった方が「とても良かったです」「すごく感動しました」と言ってくれたり、直接言わずとも、聞き手の方の眼が変わっていく様子が見て取れた時に嬉しさを感じます。人間は言葉のチカラで変化していく生き物だと思います。世の中にひとつでも多く、言葉の感動を産むことができればと思っています。
編集部
スピーチには、話し手も、聞き手も、その双方を変える力があるんですね。
千葉
そうですね。それだけ話すことに正しく向き合うことが重要であると感じます。
失敗の許容が、成功に繋がる
編集部
まだまだお話したいことはたくさんあるのですが、残念ながらお時間が迫ってきてしまいました……。最後に、千葉さんから仕事や人生を楽しむためのアドバイスなどがあれば伺えますか?
千葉
正解はない前提ではありますが、ひとつは、夢を口にし続けることです。「これをしたい」「こうなりたい」と口に出していることで、応援してもらえたり、チャンスに繋がったり、仲間に出会えたりすることはたくさんあると感じます。
編集部
面白いですね!まずは口に出してみると。
千葉
私自身、会社でも日常生活でも、「いつかこうしたいね」「こうなれるよ」っていう会話は意識的にするようにしています。仕事柄、「言葉の力を信じる」という思いも表れているのかもしれません。それが、私なりの仕事を楽しむためのひとつのエッセンスです。
編集部
ありがとうございます。ちなみに、ちょっと意地悪な質問なんですが、「仕事を楽しみたい!」と思ってはいても、「やっぱり無理だ」「逃げだしたい」と思ってしまう人も少なくはないと思います。それでも楽しさを自分の中に見つけ出すために、何か心掛けるといいなと思うことはありますか?
千葉
楽しむことには、難しさもつきものですよね。楽しさの裏には、泥水をすするような思いもあるものだと受け入れています。「失敗は自然なことだ」と受け入れることが大事なのかもしれません。私自身、これまでたくさんの失敗をしてきて、もうこれ以上悪くはならないだろうというところまで失敗をして、ようやく「また失敗してもいいや」と開き直れました。
編集部
先ほどお話いただいたエピソードにも繋がりますね。
千葉
はい。何事も人間に向けてアプローチする以上、どんなに考えてもうまくいくか、うまくいかないか、わからないと思います。とにかく挑戦する。失敗を積み重ねた先に、しっかり意味のある向き合い方をすれば、成功に近づいていくと私は思います。だから、「失敗はするものなんだ」というスタンスで、恐れないことが大切だと思っています。
編集部
なるほど。失敗の許容。
千葉
あとは、先ほどの「夢を口にする」というお話にも繋がるんですが、心の中で熱中していることに素直になることも大事だと思います。それはあくまでも好きかどうか、心が動くかどうかであって、得意なことである必要はまったく関係ありません。
編集部
心に素直になってみると。
千葉
はい。世間体とか、自分の今の能力とか、得意・不得意を一切考えずに、自分の熱量に正直になって、アクションをひとつ起こしてみれば、それはきっと新しい道を切り開く第一歩になるんじゃないかと思います。
編集部
ありがとうございます。……まだまだお聞きしたいお話はたくさんありますが、残念ながらお時間がきてしまいました。本日、千葉さんのお話を伺って、日々の仕事への向き合い方はもちろんのこと、スピーチの持つチカラや、コミュニケーションの重要性という点も再発見できた気がしています。
千葉
こちらこそ、本日はありがとうございました。少しでも参考にしていただける話があればいいなと思っています。自粛ムードの漂う昨今、コミュニケーションのカタチも変化し続けていますが、私自身、仕事を楽しむことや挑戦することを忘れずにいたいです。
取材を終えて編集部が感じた学び
画面越しでも笑顔が眩しい、とても丁寧に言葉を紡がれる素敵な方でした!
編集部はどんな場でも、どんな人にでも「どう伝わるか?」を考えて話せるようになりたいな、と思いました。
「楽しい」でつながるために”伝わるコミュニケ―ション”は不可欠ですものね。
千葉さん、楽しい学びを本当にありがとうございました!
千葉さん、お久しぶりです!本日はよろしくお願いします。